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名古屋地方裁判所 昭和57年(ワ)3516号 判決 1985年9月11日

原告

鈴木三三三

右訴訟代理人弁護士

谷口和夫

被告

太平洋運輸株式会社

右代表者代表取締役

松田博

右訴訟代理人弁護士

梅沢和夫

主文

一  被告は原告に対し金一二二万円及びこれに対する昭和五七年一一月二〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分しその二を原告のその余を被告の負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

理由

一請求原因1及び同2中原告がその主張の頃、その主張のような理由で本件懲戒解雇に付されたこと、原告が昭和五七年一〇月一五日をもつて被告を退職したことは当事者間に争いがない。

二本件懲戒解雇の正当性について

1  被告会社の概要

<証拠>によれば、被告は、昭和四三年五月二七日設立され、払込み済み資本金額二四〇〇万円の会社であるが、前記マツダ輸送の専属的下請企業として、同社名古屋支店内に唯一の営業所を設け、同支店内の車両の移動等の構内作業を行うほか、ほとんど同社の車両運搬業務のみを行い、営業収入も右マツダ輸送からの運送賃等のみに依存していること、他方、マツダ輸送名古屋支店はその車両運搬業務の約二〇パーセントを自社で処理するのみで約七〇パーセントを被告に請負わせて処理していること、そのため、被告の運送業務に支障が生ずれば直ちに同支店の業務にもかなりの影響の生ずる可能性のあること、被告は右業務を行うため、積載車八台(大型車七台、普通車一台)を保有し、積載車部門一〇名、同予備員一名、自走部門二九名(内二名はパートタイマー)、構内作業部門五名、配車その他事務部門二名の合計四七名の従業員を配置していることが認められる。

2  本件懲戒解雇に至る経緯

<証拠>によれば次の事実が認められる。

被告の最近の営業成績は芳しくなく、昭和五六年度は二四二〇万円、同五七年度は一一五五万円の損失を計上し、累積赤字は五一一六万円に達していた。その主たる原因は、従業員の賃金はもとより会社の諸経費が年々増大するのに対し、マツダ輸送から支払われる運送賃が従前どおり据置かれ、実質上、運賃の単価の切り下げがなされていたためであつた。そこへ昭和五七年四月一日頃、マツダ輸送から被告に対し運送賃の単価を平均一〇パーセント切り下げる旨を通告してきたため、被告代表者は、マツダ輸送本社まで出掛けて善処方を申し入れたが受け入れられず、被告としては運送賃の値下げ通告に従わざるを得ないこととなつた。

そのため被告は、まず、比較的問題の生ずるおそれのない自走部門の従業員に対し、マツダ輸送から運送賃単価の切り下げに伴つて、同従業員らの自走による運送業務による賃金の単価を切り下げざるを得ない旨を伝えてその了解を得た。次に、被告は自社営業部門の中心を占め、それだけに経費節減等の効果も大きいけれども従業員の抵抗も予想される積載車部門の従業員の諸手当について検討を加え、その削減を図ることとした。そこで被告は、従来、右従業員らがマツダ輸送からの車両を積載運送する際、高速自動車道路を実際に利用したか否かにかかわらず、行先別に実費額より余裕をもつた金額を定め、これを高速代立替分なる手当(給与)項目で支給していたものを、高速自動車道路を利用する必要性の高い場合に限定したうえ、その支給額をも減じることにし、また食事代なる手当も他の手当の中に含ませることを内容とする手当等の改訂案を作成し、これを同年七月初旬頃、積載車部門の最古参の運転手である訴外松岡煕に示して意見を徴し、同人の納得を取り付け、次いで、同月中旬頃、原告に対してもその説明をして、同案の了承方を求めた。右改訂案は、積載車部門従業員の一か月の賃金手取額を多い者で一万三〇〇〇円位減少させるおそれのあるものであり、仮に同従業員らが右減収を免れようとすれば、運転時間の増大など労働強化を図るしかなく、いずれにせよ、これらの者にとつては労働条件の切り下げであつて、たやすく了承することのできないものであつた。しかるに被告は右改訂案の実施に向け、次々に、個々の従業員の説得を試みようとしていたため、積載車部門の従業員の間に先行きに対する不安を持つ者が出てきたことから、右従業員らは、原告及び訴外石川一夫らを中心に団結して被告と交渉する目的で急拠「労友会」なる団体をつくり、右高速代立替分等の改訂問題に対処することにした。そして、同月二四日、二五日頃、原告が、労友会を名乗ることなく電話で被告代表者に交渉を申入れたが同人の都合がつかず、このため同月二六日午前八時頃、原告を含む労友会の構成員八名位が被告の前記営業所内の事務所に集まり、被告代表者の出社を待つて、被告に対し、右問題について団体交渉の申し入れをした。もつとも、労友会といつても、未だ規約、代表者の定めもなく、労働組合と認められる程の統一的実体を備えていなかつたから、その結成について被告に通告し、団体として労働協約を締結するといつたことは初めから問題とならないものであつた。いずれにせよ、被告代表者にとつて労友会としての十分な事前連絡もなくなされた団体交渉の申し入れであつたが、同人は異議なくこれに応じ、右団体交渉は同日午前一一時頃まで続けられた。その間、当事者間に激しい言葉の遣り取りもなく、右交渉中に被告代表者から原告らに対し、直ちに運送業務に就くようにとの業務命令の発せられることもないまま、交渉は平穏裡に進められた。そして、午前一一時頃に至り当事者双方の意見も出尽し、前記改訂案についても試みに実施したうえその結果をみて再検討するということで右交渉は終り、その後原告らは直ちに運送業務に就いた。このような経過をみると、被告代表者も交渉を続けることによつて、ある程度業務に支障が生じ、そのためマツダ輸送に迷惑を掛けることになるかもしれないことを認識しながら、自社の窮状を打開するためには右改訂案について、従業員に十分説明し、同人らの協力を得て、これを実施することが肝要であるとの考えから、右交渉に積極的に応じたことが窺えるのであるが、現実には積載車部門で、当日運搬が予定されていた車両のうち二〇台位の車両の運送を消化することができず、翌日に回された他、右交渉当日の運送業務の遅れに対し、マツダ輸送から催促の電話連絡等があり、緊急を要する運搬について、一部マツダ輸送が自ら実施し、あるいは他の下請会社に請負わせて処理するなど、マツダ輸送の業務にも混乱が生じた。このため、マツダ輸送は被告に対する制裁措置として、その後一、二か月にわたり発注量を一五ないし二〇パーセント減らした。

高速代立替分等の改訂問題は、右のような形で一応結着したのであるが、原告らはなお不満の念を拭い切れず、次第に被告との対決姿勢を強め、同年八月中旬頃には、被告が社会保険料を賃金から過分に差し引いているとして、労働基準監督署に被告に対する是正勧告を求めるなどしたため、被告は原告に対する不信感を強めるに至つたが、このような中で、被告は原告に対し、前記のとおり内容証明郵便をもつて、一か月間余の予告期間を置いて本件懲戒解雇にする旨の意思表示をした。なお、右内容証明郵便中には「本来であれば、前記団体交渉の際の原告の行為をもつて、就業規則四六条五号に該当するものとして、原告を即日懲戒解雇に処すべきところ、原告の自発的な反省の機会を与えるため一か月余り処分保留にしてきたが、反省心皆無であるから解雇する。」との記載がなされているが、被告から原告に対し、前記交渉のなされた日の直後頃に、右交渉における原告の行為が懲戒に値するとして、原告に反省を求めるとか、懲戒解雇等の処分を保留するといつた趣旨の話が伝えられた事実はなかつた。

以上のとおり認められ、<証拠判断略>、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

3 以上認定のとおり、被告が経営状態の悪化している中で、マツダ輸送から運送賃の切り下げを通告されたため、経費節減の見地から高速代立替分等の改訂案を作成してこれを実施しようとしたことはやむを得ないことというべきであるが、一方、原告ら従業員が右のような重要な労働条件の切り下げに対し、労友会なる団体を結成して、団体で被告と交渉に当ろうとしたことも労働者に認められた団体交渉権に基づく正当な権利の行使と認められるべきものである。したがつて、右団体交渉によつて、被告の業務に多少の支障の生ずることがあつたとしても、それが、通常、団体交渉に伴つて生ずる程度のものであれば、被告はこれを甘受しなければならないものといわなければならず、被告が原告らの右団体交渉によつて生じた結果を理由に懲戒処分にすることは許されないことである。ただ、原告らが十分な事前予告もなく、被告に対し前記団体交渉を申し入れ、結果的にそれがかなりの長時間に及び、現実にも被告の業務が阻害された状況からみると、原告らの右行為は団体交渉の域を越えた違法な争議行為とみられなくもないところである。しかし、これまで組合等の組織もなく、団体交渉などといつたことも初めての経験である原告らに対し、前記のような状況の中で団体交渉等におけるルールを完全に履践せよと要求するのは酷に過ぎるのみならず、被告代表者もこの点について特に異議なく交渉に応じ、しかも右業務にある程度支障の生ずることを認容したうえ交渉を継続し、この結果右改訂問題については一応の結論を得ているのであつて、被告はその後一か月余の間、原告らに対し何ら責任を問う措置を講じていないことに照らすと、たしかに、原告らが勤務時間中に被告代表者と団体交渉を行つたことにより、被告が営業上の損害を被つたことが窺われるものの、原告らの右行動を違法な争議行為と評価することは相当でない。そして、原告の故意又は重過失によつて被告に重大な損害を与えたとはあくまでも違法な行為を指すものであるから、原告の右行為を捉えて、就業規則四六条五号に該当するものとすることは許されないというべきである。

4  なお、被告は、原告の従来からの勤務態度、勤務成績の不良であることをもつて、本件懲戒解雇が正当であることを根拠づけようとするけれども、被告主張にかかる右のような事由は、いずれも本件懲戒解雇当時、被告に判明していた事実であるにもかかわらず、懲戒解雇の事由とされておらず、本訴において初めて主張されるに至つたものであることは弁論の全趣旨から明らかである。

しかも、被告が原告の勤務態度不良の具体的事実として挙げる上司に灰皿を投げつけた件も仮にそのような事実があつたとしても本件懲戒解雇問題の生ずる六年位も以前のことであり、また原告本人尋問の結果によれば、原告の起した事故はいずれも運転手にとかくありがちな過失に基づくものであること、これらの事故の都度、事故による損害について、保険で賄えない部分の負担金として各一万円を被告に支払い、被告に弁償をしてきていることが認められ、その頻度や損害額が他の運転手のそれに比べ殊更多かつたとか、これらの事故の都度これが就業規則所定の何らかの懲戒事由に付すべきものとして問題にされた事実を認めるべき証拠はない。

以上の事実関係に照すと、被告主張にかかる右事実が懲戒解雇事由に該るとすることには疑問があるが、この点は措くとしても、これらの事実は、いずれも既に過去において格別の懲戒には付さないことで結着ずみの事柄を敢て取り上げ、本件懲戒解雇の事由として主張するものであつて、雇用関係における信義則上からしても到底採用し得ないところである。

5 以上のとおり、本件懲戒解雇は、その事由なくしてなされた無効な解雇といわなければならないが、原告はこれを被告の予告解雇の意思表示としての限度で認め、被告もまた、このことについては特に争わないところである。ところで、一般的には懲戒解雇が、懲戒事由を欠き無効である場合に、これを予告解雇の意思表示に転換を認めることは、被解雇者の地位を著しく不安定にするもので信義則上許されないと考えられるのであるが、本件においては、被解雇者である原告自身が予告解雇としての効力を争わない以上、原告は被告の都合により予告解雇されたものと認めるのが相当である。

三退職金の請求について

1  被告に、原告主張の如き定めのある退職金規程、賃金規程の存することは当事者間に争いがない。

2  被告は右退職金規程等は、営業免許を得る都合上、形式を整える意味で作成したもので、従業員にも知らせてない仮装のものであるから無効である旨主張するので検討する。

<証拠>によると、被告は一時営業免許を受けないでマツダ輸送の名義を借りて運送営業を行つていたことから、営業停止処分を受け、昭和五五年二月になつて陸運局から営業免許を与えられたのであるが、この際、陸運局から、労務人事関係の諸規定を整備するように指導されたことから、就業規則、退職金、賃金の各規程を定めて昭和五六年二月九日所轄の刈谷労働基準監督署へ届出たこと、これらの諸規定の作成にあたつては、市販の規定書に若干の加筆訂正をしただけで、その内容を十分に吟味検討しなかつたことの各事実が認められる。

その作成経緯は以上のとおりであつて、これら就業規則や退職金規程、賃金規程は同一の経緯で作成されたものであり、かつ、右各規程はいずれも右就業規則の存在を前提とし、これを補充するものであることは同規則の規定文言及びその法的性質から明らかであるところ、右のような作成についての縁由も作成手続自体の瑕疵にはならないものであるし、そもそも冒頭で認定のような経営規模をもつ被告においては、労働基準法上就業規則の作成届出を義務づけられているのに被告にはこれ以外の就業規則はなく、被告も本件懲戒解雇にあたつては同規則の懲戒規定に基づいてその意思表示をしていることに照らせば、右退職金規程及び賃金規程はいずれも現に効力を有する規程として存在するというべく、これが仮装のもので無効であるとの被告の主張は肯認できない。

3  次に、原告は通勤手当等の諸手当を除き、原告らが受けていた賃金は総て基本給である旨主張し、これに対し、被告は原告らの賃金は総て歩合給であるから基本給なるものは全く存在しない旨主張するので検討する。

<証拠>によれば、被告における賃金体系は、賃金規程上、基本給と諸手当及び割増賃金からなつている(同規程二条)ところ、基本給は日給、月給制とする旨(同六条)、また基本給は従業員雇入れの際の本人の学歴、能力、経験、技能、作業内容などを勘案して各人ごとに規定し(同七条)、昇給については基本給について、毎年五月、技能、勤務成績良好なものについて行う旨(同八条)を定め、諸手当として役付手当、精皆勤手当、通勤手当、無事故手当(同一〇、一一、一三条)につきいずれも定額支給されるべき旨定めていること、一方、実際の賃金は、予め行先別に賃金額が定められている車両運搬業務を運転手が運行した実績に従い、積算して一か月の賃金総額を出したうえ、被告においてこれを基本給と生活手当、信濃手当、高速手当(前記高速代立替分と同じ)、食事手当、昇給分、有休手当などの各給与項目に任意に割り付けて支払つていること、したがつて従業員が一月のうち右運行業務に全く従事しない場合は、賃金はゼロとなることもありえるものであつたこと、しかしながら、信濃手当、高速手当、食事手当、有休手当等はこれが支給されるべき要件を具えていなければ支給できない性質のものであるから、被告において、総額を右のとおり給与項目別に任意に割り付けるといつても、各月毎に、全く恣意的になされ得るものではなく、そこには常識的に考えられる一定の基準が内在し、被告はこれに従つていたことが窺える。そして事実、被告は、本件懲戒解雇が問題となる昭和五七年九月分より前の賃金については毎月二〇万円の定額を基本給に割り当てて支払つており、(同年一月分については基本給一〇万円とされているが、これは原告の出勤日数が通常の月に比べて格段に少なかつたため、賃金総額そのものが低額であつたため生じたものであつて、例外的事例に属すると解される)賃金台帳上にもそのように記載されていること、また、個々の運転手について、勤続年数等に従つて前記運行による賃金額に格差が設けられており、勤続年数に伴つて被告の裁量ではあるが、ベースアップも実施されていたことが認められ、これらの認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定の事実に、一般に基本給とは、出来高により変動するものではなく、固定的に定まつた給与部分をいうものと解されていることを併せ考えると、前記賃金規程中に定められている通勤等四つの手当を除き、原告の受けていた賃金は総て基本給であるとする原告の主張はにわかに採用し難いが、反対に被告主張の如く、原告の賃金が出来高によつているということから、被告において基本給はない旨結論付けることは、前認定の事実に加えて前記退職金規程によれば、基本給を基準に退職金額が定められているにもかかわらず、退職金はゼロという極めて不合理な結果を招来することからも、到底採用し得る考え方ではない。

しかして、以上認定の被告の基本給に関するこれまでの取扱い、支給額、あるいは賃金規程、退職金規程中の諸規定の解釈等を総合すれば、退職金算定にあたつての原告の基本給としては、前記のとおり一か月二〇万円と認めるのが相当である。

4  そこで進んで原告の勤続年数につき判断するに、原告が昭和五一年一月七日被告に入社し、同五七年一〇月一五日退社したことは当事者間に争いがないが、被告は、原告が、その間、昭和五四年四月三〇日に一旦退社し、同五六年二月一四日再入社したものであるから、勤続年数は約一年七月である旨主張し、原告も外形上右のような入退社の事実のあつたことは争わないところである。

しかしながら、<証拠>によれば、原告が右のような入退社をした経緯は、被告が運送営業免許を有しないで運送事業を営んでいたことが陸運当局に知られ、従来の運送事業が営めなくなつたため、被告が営業免許を取得するまでの間、被告と前記のような関係にあつたマツダ輸送に依頼して、被告の積載車部門の運転手、積載車、配車係等、右営業部門を一括して同社が引継ぎ、被告が営業免許を取得次第、これら一切を被告に戻すことを予め合意のうえでとられた措置であること、それ故、被告は原告ら運転手がマツダ輸送に引継がれる際、原告らから、被告が営業免許を取得して従来の積載車部門の営業を再開した場合は、マツダ輸送を退職して被告に入社する旨の誓約書を徴し、前記措置の実効確保を図つていること、そして予定どおり営業免許の取得とともに原告らは被告へ再入社となつたわけであるが、その前後を通じて、原告らの具体的勤務場所、勤務条件等に何らの変化はなく、原告らと被告の間においても、右積載車部門の従業員が被告を退社し、改めて入社したといつた観念はなく、もとよりマツダ輸送及び被告においても、退職金等のことは話題にもなつていないことが認められ<る。><証拠判断略>

以上の事実によれば、原告が被告を退社してマツダ輸送へ移籍したのは、外形上はまさしく退社にほかならないけれどもその実質は近い将来被告へ復籍することを予定してなされた出向に比すべきものと評価することができる。そして前記退職金規程五条三号によれば、従業員の出向中の期間はこれを勤続年数に算入することと定められていることが明らかであるから、原告の退職金算定に当つては、右マツダ輸送へ勤務中の期間も勤続年数に算入するのが相当であり、被告のこの点の主張は採用できない。

5  そうすると原告の勤続年数は合計六年九か月余となるので前同退職金規程五条二号により、退職金規程上の勤続年数を七年とし、同規程三条により勤続年数七年の会社都合による退職の場合の系数五・六を乗じて原告の退職金を算定すると次のとおり一一二万円となる。

20万×5.6=112万(円)

四原告は、昭和五七年七月にはボーナスの支給が、同年五月からは定期昇給がなされた旨主張するけれども、賃金規程上あるいは労働協約等によつて、従業員全員に対し、一律にこれらの措置がとられることを窺わせる条項はなく、その他、被告が原告に対し、右のような措置を決めたことを認めるに足りる証拠はないから、原告のこの点の請求は理由がない。

五慰藉料について

<証拠>によれば、原告は、本件懲戒解雇後、職業安定所等において就職の斡旋を受けたが、被告が雇用保険被保険者離職票に離職理由として懲戒解雇と記載したため、原告は再就職に苦労したことが認められる。

ところで、本件懲戒解雇が無効であることは前認定のとおりであるから、それにもかかわらず被告が離職票に右のような記載をしたことは違法たるを免れない。

そうすると被告には、原告がこれによつて蒙つた精神的苦痛に対し慰藉料を支払うべき義務があるところ、本件懲戒解雇がなされるに至つた経緯及びこれが無効とされた事情等本件に顕われた一切の事情を斟酌すると、被告が支払うべき慰藉料として金一〇万円と認めるのが相当である。

六以上によれば、原告の本訴請求中一二二万円とこれに対する本訴状が被告に送達されたことが記録上明らかな昭和五七年一一月一九日の翌日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官宮本 増 裁判官福田皓一 裁判官佐藤 明)

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